2021年10月4日月曜日

伊吹有喜:「かなたの友へ」(2回目)

 ページを開いて数ページで何となく既視感。この本、ひょっとして前に読んだのではないか?疑念を抱きつつさらに数ページ。やっぱり読んだことがあるぞ、と思いつつあらすじの大半は思い出せず読み進み、終盤では結構熱中し、最後まで読み切った。自分のブログで検索してみるとやはり2018年9月、読後感が書かれていた。自分のブログは自分のために書いていると日頃から友人たちに話していたが今回は正に自分にとても役に立った。同じ本を2度、しっかり読んだことって初めてかもしれない。それくらい内容を覚えていない中で、ストーリーが読ませるものを持っている、ということだろう。かって名主筆として一時代を築いた主人公佐倉波津子(本名:ハツ)が今現在は90歳を超えて養護施設で日々を過ごしている。日なが夢を見ているような、現実とも幻とも判別しない時間を過ごしながら昭和12年から昭和20年の終戦後までを克明になぞっていく。輝かしい青春の日々だった。高等小学校しか出ていない中で憧れの少女雑誌の愛読者から給仕になり編集者になり、主筆にまで育ててくれた有賀主筆を心から敬愛し、恋し、出征の時手渡した日章旗の4隅に描いた楽譜に秘めた想いを忍ばせ、その後終戦が7年も経てビルマの旧家から出てきた日本兵士の遺品にその返歌が楽譜でつづられていたのだ。90歳になって自分の恋の成就を知り、心和むシーンは心を打った。2度目の読書にもかかわらず泣けた。有賀主筆にどこか面影の似た青年が自分の出生の秘密を追いかけて会いに来てくれてすべての話が完結する。人の輪が繋がったのだ。そして自分もだんだん90歳のハツさんに似てきたようだ。読んだか読まなかったのかもはっきりしなかった自分が今ここにいる。


吉田修一:「永遠(とは)と横道世之介」

 横道世之介シリーズの完結編であることはタイトルから想像がつく。これは新聞の連載で読んだものである。と言っても細切れで読んだわけではない。というのは私は新聞のデジタル版の購読者なので、こういう連載小説はHPのアーカイブスのようなところに全部保管されているのでまとめ読みが可能なので...