2013年11月23日土曜日
丸谷才一:「笹まくら」
先ごろ、丸谷才一氏が亡くなられた。この人の本は以前に読んですごく才能のある人みたいだなぁ、と思ったことがあった。気になって本棚を漁ってみたら「たった一人の反乱」が見付かった。パラパラめくったが全然覚えていない。初めて読むのと同じような感じでした。ここで深入りするのもしゃくなので、改めてこの人の代表的なものを1冊読んでみようと調べてみました。評論や座談やエッセイなど沢山の著作が見付かりましたが、その中から1冊だけ選びました。初期に描かれた本で名作の誉れの高かったものです。それがこの「笹まくら」でした。太平洋戦争前、日華事変などきな臭い最中に専門学校卒業を前にして兵隊にとられるのをひそかに恐れる、世田谷の町医者の息子、浜田庄吉は、明日入営するという前日、大胆にも兵役忌避者として忽然と姿を消す。(ここが最後の場面です)物語はまんまと目的を果たして終戦まで逃げおおせた浜田庄吉の平穏な日常生活から始まるのです。今は大学の事務畑でサラリーマンになっている彼を取り巻く同僚や教授たち、就職をあっせんしてくれた理事、奥さん、やがて学生時代の親友2人それから逃亡時代に同棲してくれた女性という具合に次第に登場人物が増えて行って、1つのお芝居の舞台のように交友関係の中でどうしてそういう思想を抱き、どう実行し、どう生き延びたかをリアルに描き出していました。兵役忌避者が世間からどういう目で見られ、やがて自分を取り巻く空間が開けた1枚の風景ではなく、ガラスを隔てた自分とその他の人たちという住む世界の違う2つの塊り(といっても一方の塊りは自分という兵役忌避者しかいない)に分かれていることに気付かされていく。その孤独感、閉塞感、疑心暗鬼の想念から脱することのできない、どうしようもない感覚を見事に描写していました。こういう設定が凄い。正に映画か舞台だ。時代が少し古く、国民皆兵であった時代を想像できない現代では読まれることも少なくなっていくのでしょうか、片や、中国や韓国との対立が鋭く、目立ってきた今、時代は少し、暗さを伴ってきている訳で、そうした中では改めて見直されるかもしれない現代性を帯びているとも言えそうです。秘密保護法とか世相は暗いですね。太平洋戦争で日本がやってきたことが近隣諸国からは決して忘れないよ、日本は侵略国で我々近隣諸国はその被害者だ、という色分けで迫られると、この本の主人公のように日本という国も立ちすくまざるを得なくなる、そんな姿を思い描いてしまうのです。
この本の後半に逃亡時代に訪れた岩国の「天赦園」という庭園に行く場面が出てきた。その由来の中に、伊達正宗作の五言絶句の漢詩が紹介されていた。
馬上少年過 馬上少年過ぐ
世平白髪多 世平かにして白髪多し
残躯天所赦 残躯、天の赦す所
不楽是如何 楽しまずして、是を如何にせん
[現代語訳]
戦場に馬を馳せた青春の日々は遠く過ぎ去った。
今や天下は泰平。俺の髪の毛はすっかり白くなった。
何の因果か、戦国の世を生き延びたこの身である。
老後くらい好きに楽しまないでどうするのだ。
天もきっとお許しになるだろう
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戦場を今の世のサラリーマン時代に置き換えると、どうだろう。正に今の自分(や世の一生懸命に生きてきた人みんな)の身の上に重ね合わせてみると、なんと説得力のあることか!別のことで感心させられました。
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