2015年7月16日木曜日

朝井まかて:「先生のお庭番」

作者は不思議な名前の持ち主。本屋さん大賞や直木賞を受賞している女流作家の作品。昔出会った川上弘美に「先生のカバン」という佳作があったのを思い出させるタイトル・・・だが表紙をめくるとそこは江戸時代、長崎は出島での物語でした。主人公は出島の蘭方医の居宅に開く薬草園のお守りをする植木職人「熊吉」。皆が出入りを嫌がる外国居留民の街、出島。若干14歳の小僧レベルの熊吉が選ばれて派遣されるが本人は実はそれを望んでいた。その気持ちがばれるのを押し隠して出島通いが始まる。熊吉は実はオランダ語に興味津々だったのだ。植物たちの心(性質)が判り、適切に扱うことで見事な薬草園を作り上げる。その蘭方医の名前はかの有名なシーボルト先生とその愛妾、おたきさんとの居宅だったのだ。熊吉の眼を通して当時の江戸、ドイツ人医師シーボルトがオランダ人と詐称して商館医の役職で赴任してきたが、植物に大きな興味を示して薬草園を開設するのだが、興味は植物に留まらず、風習、地図など万物に及ぶ。どうやら当時のプロイセン帝国の密命も帯びていたのかもしれない。鎖国時代に日本の地図を運び出そうとした船が長崎を出港して直ぐあとに難破して積み荷が沿岸に流れ着き、その中に日本地図が入っていたことから起きる「シーボルト事件」が最後のクライマックスになっている。これと前後してオランダの植民地バタビア(インドネシア、ジャカルタの旧称)にお茶の木を送ったり、珍しい日本の庭木、薬草類を数百種、オランダに送っていた。長崎からオランダまで当時は船で7か月かかったらしい。この期間をどう生き延びさせるか植木鉢に工夫を重ねて成功させるなどシーボルトの頼みを次々と実行していく。心底、シーボルトとおたきさんを敬い、植木職人としてベストを尽くすのが健気だ。結局、シーボルトの手先として使われただけかもしれない。本のタイトルの「お庭番」には隠密という意味も含めてつけたのであろうか?1820年代の日本の当時の状況を熊吉の感覚で活写している。面白い読み物でした。

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