2016年10月17日月曜日

佐藤泰志:「海炭市叙景」

巻末の解説(福間健二)によれば、この著者は1990.10.10に自死したそうである。「海炭市叙景」は春夏秋冬の4部からなる構想だったのだが、志半ばで冬、春の2部、18の物語までで途切れてしまったことになったらしい。各小編は短編小説のようでもあるが、お互いにどういう関連が付けられているかは定かではない。第1話は函館山らしい夜景のきれいな小さな山に2人でケーブルを利用して上り、帰りは妹をケーブルで返して自分は徒歩で帰ると言い残したまま自殺した青年の話から始まる。閉鎖された炭鉱ぐらいしか産業のないどんどん寂れていく街に取り残された妹はどうなるのだろうか?第2,第3話ではそれらしい噂話がひきつがれていくが、その後は次第に出てこなくなり、断片的な寓話がつながっていく。どう展開していくのかは自分には見えない。それぞれの話はどれも短編になりうるような、描写もしっかりしていて読ませる。それだからだろうか、この作品を基にした映画が最近何本か上映されている。読んだ後にその後の展開が気になる、そんな話が多いのだ。この作家の才能は十分読み取れた。そして解説を書いている福間氏は詩人で、その詩の中から18の物語の夫々のタイトルが取られているのだそうだ。凄い繋がりの中でこの詩人は解説を書いている。自分がその立場になったら一寸、重いかな?

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