2018年12月30日日曜日

藤岡陽子:「手のひらの音符」

この手の青春小説はどれも読後感が良い。今回の物語はアラフォーティの服飾デザイナー水樹が主人公。この仕事に就くきっかけを与えてくれた高校の担任が病に冒され入院しているという連絡を貰った水樹は、見舞いの為に久しぶりに帰郷する。同級生との再会で、当時の懐かしい記憶が甦り、勇気付けられ現路線から撤退の方針を聞かされて行き詰まっていた水樹が何とか再び頑張る力を得て行く。これは大きな流れであってお話の主流は小学生時代から高校生時代にある。主人公は洋裁が好きな女の子、親の無理を分かっていながらデザインを学ぶ専門学校に進み、20数年東京で過ごした。小学生時代から同じ公営住宅に住まい、分け隔てなく過ごした幼なじみの三兄弟との関わりが読み処。とりわけもう一つの家族の次男の信也とは同級生で秘かに心を寄せていた。20数年後、競輪選手として活躍している彼との再会でハッピーエンドになっていく。偏見、貧困、いじめ、死、恋愛...多くの要素がちりばめられている。貧しい子供時代の部分は、背景も時代も違うけれど、子供ながらに、必死に生きていた自分の昔を思い出させる。ドレミの唄がこれまた最高。ドはどりょくのド レはれんしゅうのレ ミはみずきのミ ファはファイトのファ 家が貧しく辛い生活でも努力していればきっと道は拓ける。まわり道してもいい。自分の本当にやりたいことを見つけたら、それに向かって努力をする。水樹と憲吾は京都の地場産業を支える事を。悠人は研究者として。正浩にいちゃんは空から見守ってくれている。

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吉田修一:「永遠(とは)と横道世之介」

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