2019年10月14日月曜日

やすらぎの刻(道)2

山梨の山間の小野ケ沢村に根来家がある。男4人女2人の子供が両親と暮らす。その他に義理の鉄平兄が一人更に山間に炭を焼いて暮らしている。また、従妹の根来しのも訳あって根来家に同居していた。昭和10~12年ころ。ちょうど自分の生い立ちを少し遡る時間軸だ。この当時の家族構成としては妥当なところなんだろう。自分も6人兄弟姉妹の6番目でその点でも類似だ。山梨の山間部で北岳などが望めるその地での小作は貧しい限りだったろう。その両親は脳卒中や心筋梗塞などであっという間に亡くなり、昭和14年ごろには6人兄弟姉妹だけの暮らしとなっていた。昭和16年の開戦前に義理の兄に召集令状が来ると、義兄は徴兵を拒否して山に消えた。元々、山人との交わりがあったようで深く山奥に入れば、とても普通の人たちには追跡されることはない。同じ山に詳しい猟師が一人、山に分け入り1週間位して戻ってきた。山深いところで説得したが拒否されたので射殺したという報告で憲兵隊もようやく納得した。(恐らく、殺されずどこかで生きているだろうと想像している)次男は自ら志願して海軍予科練に入隊し、飛行士となった。三男は戦争で人を殺めることには耐えられず、召集令状を受け取ると入営の前日に農薬で自殺した。太平洋戦争が始まる少し前には、国策で満州への入植者の大々的な募集が始まり、それ以前からお金の稼ぎ頭だった養蚕業が輸出先を失って壊滅的な打撃を受け、困っていた小作農家の人たちは満蒙開拓団に飛びついて、四男公平の友達たちは殆ど満州へ旅立ち、小野沢村は女子供老人たちだけの村になってしまった。農家は国の食料を生産する役割を果たすため、長男や跡取りは徴兵を免除されていたが戦局が厳しくなってくると「国民総動員令」、「学徒動員令」が発動されて長男公一にも召集令状が届く。長男は淡々として出征の途につく。この物語の主人公は4男公平だ。彼は召集令状が来る前に自分がやるべきことを決めていた。究極の召集忌避策だった。それは疎開の荷物を積んできたトラックが村にやってくるという思いがけないチャンス、そのタイミングを逃さす決行した。トラックの後輪に事故を装って足を投げ出しケガをすることだった。大けがで右足をあわや切断というほどの事故を奇跡的に克服し、ビッコながらも歩行はできるが軍隊では使い物にならない身障者となり、兵役を免れた。4者4様の戦争への対応を経て、戦争は終焉へと進んでいく。

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