2020年10月18日日曜日

凪良ゆう:「流浪の月」

 2017年の吉川英治文学新人賞、2020年の本屋大賞作品。著者は漫画家志望だったそうだが実際には多彩な執筆活動を行っている様子だが、その著作のテーマでは、一貫して「どこまでも世間と相いれない人たち」を書いてきたことだという。(Wikipediaから)

本作も主人公更紗は親に恵まれず、8歳で叔母の家に引き取られ育つが、その家の中2の男の子(従弟)に夜ごと悪戯されて過ごさざるを得なかった薄幸の身。居所がなく家には帰りたくない。偶々公園で出会ったロリコン風の若い男に連れられてその家に転がり込むように現実から逃避した。やがて捜索願が出て幼女誘拐事件に発展していく。確かに世間から容易には受け入れてもらえない状況の若い男女が成長しても過去の忌まわしい事件から逃れることはできない。二人は事件から10数年たって偶然に出会い、しかし、不条理の積み重なりの中で二人だけが分かり合える僅かな安らぎを慈しむ。しかし、ネット社会ではいつしか昔の出来事が蒸し返され、築き上げたささやかな平安がもろくも崩れていく。救いようのない状況の二人を描くが不思議と温かみが感じられる作品だった。Diversity(多様性)と言えば容易いがいろんなハンディキャップを持った人が実社会で当たり前のように生きていくことはむつかしい問題だらけだということが実感させられる。

0 件のコメント:

コメントを投稿

吉田修一:「永遠(とは)と横道世之介」

 横道世之介シリーズの完結編であることはタイトルから想像がつく。これは新聞の連載で読んだものである。と言っても細切れで読んだわけではない。というのは私は新聞のデジタル版の購読者なので、こういう連載小説はHPのアーカイブスのようなところに全部保管されているのでまとめ読みが可能なので...