彼女にしか書けない絵画関連、取り上げたのは、かの有名なフィンセント・フォン・ゴッホ。生涯、その繊細な感覚、独自の表現力を世に認められることなく、弟のレオと寄り添い、寄り添われ画業にまい進するが、その繊細な感性が、弟への思いやりが限界を切って自殺してしまう。その生涯を当時パリで浮世絵や日本の芸術品の画商をしていた日本人の目を通して描いている作品。ここに出てくるレオやフィンセントに寄り添った日本人、加納重吉は金沢出身、その重吉を誘ったのは林忠正、富山県主出身ということになっている。事実かどうかは分からない。
物語は1886年1月10日に始まり、1891年5月中旬で終わる。フィンセントが自殺したのは1890年7月29日らしい。残されたおびただしい作品はすべて弟のテオがきちんと目録付きで保管されていた。いつか世に認められる日が来ることを固く信じていた。この兄弟愛は愛と憎しみとが絡み合い、生涯続いた。憎しみは兄が自分の絵に絶望して酒のおぼれようやく工面指定し送るお金を浪費してしまうことやどうしたら兄に立ち直ってくれるのかと悩むストレスからくるものだったろう。その弟も兄と同じ繊細な心の持ち主で兄を死なせた自責の念もあったのか、あっけなく兄の後を追いかけるように3か月後に亡くなる。兄が自殺に使った拳銃は実はテオの持ち物だったのだ。兄をおどうそうかとカバンに入れてそのまま忘れていたものをある時兄に抜き取られていたのだった。タイトルの「たゆたえども沈まず」は度重なる洪水を続けパリ中を水浸しにするセーヌ川にあるシテ島のことを指している。別の表現では「風にそよぐ葦」とか「風に柳」とほぼ同義だろうか?
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