「フランス企業は真っ先に日本から逃げた」と話題になったことから説き起こし、危機への対応が欧米企業の意思決定が日本企業より早かった事実の裏側を説明していて面白かった(だけではすまされないのですが)ので抄録しておきます。(5月9日日経新聞から)
ルイ・ヴィトンやカルティエなどの高級ブランド店は震災直後にいっせいに休業した。フォール駐日大使の解説では、「あわてて会議を開いて決めたわけではない。手順は前から定められていて、それを忠実に実行しただけだ」
制御不能になった原子炉への対応で東電の右往左往がつづく。「最悪の事態」を想定せず、ことが起こってから考えるから時間が掛かり、失敗もする。例えば、福島第1原発では津波の高さを最大5.7mと想定していたという。現実には14m以上に襲われ、冷却装置が動かなくなった。なぜ、東電は設計時5.7mで線を引いたのか。技術陣が「たとえ5mの津波が来ても大丈夫です」と説明したときに、「10mならどうする?」と専門家でなくとも客観的な立場から問い返すのが経営トップの役目のはず。経済産業省幹部は「当事者が最悪の事態を想定すること自体が背徳的。そんなことを考えているのかと逆に糾弾されてしまう」と。トヨタのリコール、ソニーの情報漏えいでも技術への過信がなかったか。
フォール大使によると、仏原子力庁と政府傘下のアレバ社とは全仏各地の原発について、炉心溶融やテロ攻撃、核攻撃、放射性物質の大量放出など考えられる限りの「最悪事態」を想定し、2005年から模擬実験を繰り返してきた。農業などへの予測も品目ごとの安全基準。1日、1週間、1ヶ月、1年など時間軸に沿った対応策。出荷停止や廃棄、農家への補償など原発からの距離に応じた行動計画があらかじめ練られているという。放射線汚染の可能性がある日本の農産物や製品の輸入について、検査方法や基準をいち早く打ち出したのはアメリカだった。911事件以来、テロに備えた対応策を作ってあったからだ。
マニュアルがあれば後は実行するのみ。日本に対する支援でも米仏の対応が早かったのは意思決定の速さというより視野に入れている危機の範囲の広さにある。
仏政府の原発機器の対応マニュアルや米国の輸入品の検査基準も事前には公開されていない。だが起きてはならない「最悪の事態」を悪魔の心で計算していた。日本が西欧から学び損ねた技術文明の1つの側面がここにある。
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