2012年7月9日月曜日

江宮隆之:「冬萌の朝」

この本は、「白磁の人」で初めに出版されたものを、映画化に当って色んな人からの意見を作者が聞いて、一部書き直したものだそうです。それは兎も角・・・

日韓併合後の韓国に住み、韓国人を愛し、韓国の文化を愛し、そして韓国人に愛され、韓国で40歳の人生を閉じた浅川巧。その墓は今もソウル郊外の共同墓地にある。(中略)
筆者が一番言いたかった言葉は、巧に仮託した。それは「暴力からは何も生まれない」「憎しみからは何も生まれない」という言葉である。(著者のあとがきから抜粋)

韓国という単語を使っていますが、実際は朝鮮という事でしょう。朝鮮で李朝以降途絶えた、白磁の美しさを見出し、民芸運動の柳宗悦と共に朝鮮の民芸品の発掘・保存を進め、韓国の山野緑化を仕事としながら韓国の地に骨を埋めた人を通して、日韓の近くて遠い関係を描いています。

この間まで読んでいた本(「あの日、パナマホテルで」)では、白人社会における日本人への差別に泣いた日系人に深い同情とその地で頑張った同胞人の努力に敬意を覚えましたが、今度は一転して日本人が朝鮮の人々を蹂躙していった過去を見せつけられました。人間というのは集団になるとトンデモナイ暴走をしてしまう動物なんですね。冷静なときは「理性的」なのに、集団になって何かに扇動されると、「感情的に、動物的に」暴発してしまうのですね。ここで描かれている浅川巧をはじめ、登場している韓国の両班の貴族の人々も揃ってクリスチャンであるのが個人的にはちょっと悔しいところではあります。この作品がこの前から上映されていて読み終わったら映画を観に行こうと少し読み焦っていました。ようやく読み終えて、ネットで近くのシネコンを探しましたら、どこも既に終了していました。残るは新宿と有楽町辺りだけでした。来週末までやっていれば観に行きたいと思っていますがやっているかどうか危ないところです。

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