2013年1月29日火曜日

葉室麟:「乾山晩愁」(けんざんばんしゅう)

葉室の小説も割と手にすることが多い。歴史小説というジャンルになるのでしょうか?史実の襞を取り出して見せてくれるのですが、文章全体に格調の高さを感じて快いのです。今回のものは安土桃山時代から江戸時代にかけて、活躍していた絵師たちの心情を描いています。当時の絵師たちは時の権力者たちが建設する城郭や茶室や部下への恩賞、公家への贈答など色々な場面で抱えている絵師たちに描かせたものを使い、絵師たちは時の権力者にすり寄ることで、生活を安定させ、己の作品を世に送り出すことができる。その中で、己を曲げたり、おもねったりして、権力者と共に自己表現をしていく。本書では、尾形乾山(尾形光琳の弟で陶芸士)、狩野永徳、長谷川等伯、狩野雪信(江戸時代の狩野派、女流絵師)、英一蝶(江戸、綱吉時代の狩野派異端の絵師)などを取り上げて、時代と共に、あるいは時代に流され、それでも絵を描き続けた絵師たちを描いていて興味深かった。とりわけ先の賞で安部竜太郎の受賞作「等伯」を読んだ後なので、狩野派と長谷川派などの因縁もある程度、予備知識があって面白く読みました。あとがきに著者は「修羅」という言葉をキーワードにして文筆家より絵や茶器を生業とした人たちに「修羅」を観たと語っている。そしていづれ、文筆家たちの修羅についても触れようという思いを感じ取りました。期待したいところです。

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