老子の思想をわかりやすく伝えようと、もともと詩人であり、水墨画でも有名な加島という人が努力してくれています。1923年生まれ。私よりも11歳も上だ。
言い伝えによれば、老子は紀元前5世紀頃、楚の国にあった人で、生没年は不詳。しかし、彼が残した様々な言葉には、2500年という膨大な時の隔たりを超えて、加島祥造の手を借りて、私たちに何かを届けてくれようとしています。
大器晩成、上善如水、天網恢恢疎而不漏などの言葉はみな老子の言葉だそうです。しかしそうした切り口とは全く違うことを加島祥造は紹介してくれています。それは道徳編にある言葉らしいのです。
まず名のない領域があった。
そこから天と地が生まれた。
天と地の間から
数知れぬ名前が生まれた。
だから天と地は
名のある万物の母なのだ。
この働きを仮に
道(タオ)と名づけるんだ。
ところで
名のあるものには欲がくっつく。
欲がくっつけば、物の表面しか見えない。
無欲になって初めて真のリアリティが見えてくるんだよ。
取っ付きはやはり難解です。キリストの天地創造のようなこの出だしの後は、だんだんわかりやすい話が出てきました。
物はすべて片方だけでは存在しない・・・美と醜、善と悪、優と劣、有と無、高いと低い、などなど、老子は人の中にある陰と陽の働きを先ずしっかりと理解させる。体内にある頭と腹、知性と感情、心と肉体のほか限りなく多様な陰と陽の働きがある。その現実を示した後、そのふたつを調和するにはタオの働きが必要だ。そこに目を向けよ、と説いているのだそうです。簡単にはわかりません。要は自分の中にバランスを見出すことはとても気持ちの安定に役立つようだと加島さんは言っています。
兎に角この本は老子の思想を加島流にアレンジして示してくれていますが、所詮図書館で借りてきて読む本ではありません。座右に置いて時に味わい、深く吟味していくときに何か心に得心が行き渡るようなそんな本でした。加島さんには何冊か類似の書を出しているようです。どれか1冊手元に置いて置きたくなりました。