2015年5月23日土曜日

村田喜代子:「八幡炎炎記」第1部

戦後70年、この小説は広島に原爆投下される前後から始まる。勿論回想としての部分で、進行している時代は戦後の動乱の八幡だ。今の新日鉄が君臨する企業城下町の一角に住む庶民の逞しい生き様が描かれている。どうやら自伝的に戦後の動乱期を描き残そうとしているもののようだ。幼いヒナ子という子供の目で物語が進んでいく。広島から終戦前に働いていた小糸洋服店の女房ミツ江と駆け落ちして戦火とピカドンから偶然にも逃れられて、奥さんの姉たちが住んでいる八幡の町に住み、暮らしている。ピカドンのお蔭で元の小糸洋服店は跡形もなく消失し、不義をとがめる相手を心配することもなくなったが、戸籍を抜いて正式に結婚するために広島に通い、ようやく決着をつけたが遠縁の娘「緑」を貰い子として育てる羽目になっている。上の姉サトの家に貰われ、育てられているのがヒナ子。この家にはヒナ子の母親百合子も姉として養女になっている、複雑な家族だ。あの時代、戦争で親のない子がたくさんいて貰い子など養子縁組がごく普通にみられたらしい。そういう時代だったのだ。猥雑でしかし八幡という鉄鋼の街は確実に生気を取り戻し、それなりに活況を呈し、その中で暮し、親たち叔父さんたちを観察する形で物語は進んでいきます。その親であり姉でもある百合子に新たに異父弟が生まれるところで第1部は終わる。ヒナ子は小学2.3年生だろうか?何とも雑多な人間たちが3つの家族を作って混乱の戦後を生きている。

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