2017年1月5日木曜日

朝井まかて:「恋歌」(れんか)

この作家の本としては2冊め。こういう物語がどういうジャンルに入るのか分かりません。、明治初期の女流歌人中島歌子は「師の君]と呼ばれ1000人を超える門下生を抱え隆盛を誇って生きたが晩年は与謝野晶子らの新しい潮流に押し流され寂れていく。その「師の君」入院の報で病院に駆けつける田圃はその高弟のひとり。彼女が「師の君」の残された書類を整理しに行って見つけた膨大な「言文一致体」の書き置き、これを読み進むことで物語が展開する。中島歌子の本名は林登世、旧姓は中島登世。思春期の頃に親が経営していた料亭池田屋に出入りしていた水戸藩士林以徳に一目惚れし、遂に添い遂げることはできるのだが、時は尊皇攘夷や開国と揺れ動く幕末、水戸藩の尊王攘夷派として名高い天狗党とそれに対抗する体制派とでもいうのか諸生党との熾烈な争いに巻き込まれてその結婚生活は短かった。その書き置きは手記の形で、馴れ初めから水戸に嫁ぎ、天狗党事件とともにその妻子まで牢獄に留め置かれ、多くが過酷な仕打ちの中で斃れていく。半年後時代がご一新で転換し開放されて後、江戸に逃れ、歌の道に入る。激動の生涯がそこには書きつけられていた。憎っくき諸生党、その首魁市川執政許すまじ・・・・その市川氏の忘れ形見の女の子が何と、我が歌塾「萩の舎」を長く取り仕切ってくれていた女中、澄。これは幕末を水戸天狗党事件を通して描いた歴史小説なのでしょうか?それとも、勿論表題から察するように人の世の恩愛、憎しみと愛の物語なのでしょうか?高弟、田圃という女性は何と三宅雪嶺夫人でもあってまたビックリしました。三宅雪嶺と聞けば、明治の哲学者、評論家?加賀藩の出身で自分の卒業した小学校の校庭の片隅の大樹の下に「三宅雪嶺生誕の地」という碑が立っていて馴染み深くもあった。その他にも門下生に樋口一葉が出てきたり、その頃の人間模様も見えてきて認識を新たにした。水戸藩という藩のことも・・・水戸出身の人には是非読んでみてもらいたい本です。そして感想を聞きたいものです。

0 件のコメント:

コメントを投稿

吉田修一:「永遠(とは)と横道世之介」

 横道世之介シリーズの完結編であることはタイトルから想像がつく。これは新聞の連載で読んだものである。と言っても細切れで読んだわけではない。というのは私は新聞のデジタル版の購読者なので、こういう連載小説はHPのアーカイブスのようなところに全部保管されているのでまとめ読みが可能なので...