2018年9月4日火曜日

伊吹有喜(ゆき):「彼方の友へ」

初お目見え。8月に相応しい本だった。
「友よ、最上のものを」
戦中の東京、雑誌づくりに夢と情熱を抱いて――
平成の老人施設でひとりまどろむ佐倉波津子に、
赤いリボンで結ばれた小さな箱が手渡された。
「乙女の友・昭和十三年 新年号附録 長谷川純司 作」。そう印刷された可憐な箱は、70余年の歳月をかけて届けられたものだった――
『彼方の友へ』を読み、モデルが気になった。実業之日本社が明治頃から出版してきた少女向けの雑誌「少女の友」、思い焦がれた編集室主筆有賀憲一郎の実在モデルは内山基主筆、コンビを組んで一世を風靡した画家長谷川純司は中原淳一とわかった。2009年3月に『少女の友』創刊100周年記念号が出、それに触発された作者、伊吹有喜が『彼方の友へ』を2017年に書いたとのこと。小学校しか出ていない主人公佐倉ハツ(初津子)が錚々たる学歴エリートたちの編集室に放り込まれ、「君、辞めてくれないか」と言われた有賀主筆にある事をきっかけに手ずから自分の持つ全てを教えこまれ、戦中戦後の雑誌を廃刊から守り抜く。戦前、戦中、戦後という激動の時代に、情熱を胸に生きる波津子とそのまわりの人々をあたたかく、生き生きとした筆致で描く秀作。佐倉の父がスパイだったらしく、雑誌社に送り込まれるまでのところが若干無理があるような気もしたが・・・佐倉波津子にもモデルがあるのかどうかは分からなかった。居てほしい気がするのだが・・・。出だしの老人施設で夢うつつの中で自分の人生を映画を見るように振り返る、そして最後にまた、施設に訪ねてくれた懐かしい人の玄孫の口から懐かしい人々の消息が謎解きのように明らかになっていく、映画によく取られる手法だ。

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