1739~1740年(元文4~5年)に大阪で起きた疑獄事件「辰巳屋騒動」というのはこの本を読むまでまるで知らなかった。この作品のどこまでが史実で、どこからが創作なのかの区別もできない。大阪の大手の薪炭問屋辰巳屋の主人久左衛門が急逝し、店を継ぐはずの養子乙之助を主人の弟木津屋吉兵衛が追い出し、店を乗っ取った事件とされているようだが、本作では悪玉は辰巳屋の大番頭与兵衛であったり、江戸の老中松平和泉守であったり吉宗公であったりする。誰の視点に立つかによって、悪玉は入れ替わってしまう。本作では吉兵衛は冤罪を受けた被害者との視点で書かれている。「辰巳屋騒動」がどういうものか詳しく知らない私には、大坂の商家の相続事件が、吉宗、大岡越前などを巻き込み、更に、商人と奉行所の癒着、江戸と大坂との関係、金貨銀貨の改鋳、牢獄の実態などの様々な要素を盛り込んで複合的な物語に展開していく。吉宗の意向を忖度する目付け役、大岡忠相、よく出てくる名裁きとは程遠い迷いの中で苦悩する。単なる勧善懲悪物語として描くのでない著者の筆力で最後までどうなるのか、冤罪ではないかというスタンスでの描写なのでどう折り合いをつけるのかとハラハラしながら読み進んだ。最後にお白州の場で宿敵、唐金屋との相対(個人ベースの談合)でその謎が明かされる。面白かった。
小説2016年6月号?2017年12月号に隔月で連載されたものに加筆修正し、2018年7月角川書店から刊行。辰巳屋一件と呼ばれる史実もの。
2019年4月15日月曜日
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