初挑戦。第162回直木賞受賞作。アイヌにはユーカラ(樺太アイヌでは「ハウキ」と言うらしい)という叙事詩があると聞かされていたが、この小説もまたアイヌ民族の現代史の一断面を丹念に調べ上げて書かれた叙事詩的作品だった。
それは初め無主の島、サハリン島の成り立ちをロシアと日本の共有地としてスタートし、後(明治維新のころらしい)にロシアが単独で領有することになり、日露戦争後に講和条約で北緯50度以南のサハリン島は日本の領有に変り、1945年8月の太平洋戦争によってソビエトが嘗ての領有権を回復しようともくろむ日ソ不可侵条約を破棄した時点までを俯瞰するような物語だった。主役はその地で暮らすアイヌの民。サハリンに住むアイヌの民は希望によりその後住む地をそのままサハリンに留まるか、或いは日本(北海道)にするかを選択できたらしい。そして日本を選んだ人たちが石狩川のほとりに入植した。その入植者たちの中から自分たちのルーツを求めて再度サハリンに戻った人たち(ヤヨマネフク、シシラトカ、千徳太郎治)が主人公だ。平穏に狩猟を中心として暮らせればそれでよかったアイヌの民にロシアと日本の都合が、そして文明が自然と征服される側の民族へと押し込められる。ロシアの流刑囚プロニスワフ・ピウスツキ(後に民俗学者となりアイヌの民を研究、アイヌ民族を世界に紹介)その妻となるアイヌのチュフサンマなど。金田一京助、大隈重信などが歴史に顔を出す。無知から土地を追われ、権益を奪われて貧困から抜け出せず、また同じように伝染病に対する知識もなくコレラや天然痘に多くの同胞を失い、滅びゆく民族として扱われることへの抵抗感を感じながらもあがき続ける主人公たちの苦悩を描いていく。日露戦争後は日本統治下の樺太では白瀬中尉の南極点到達探検隊に同行してアイヌの存在を歴史に残そうと応募し南極大陸にまでも行くが成功までには至らない。そして時は移り人は世代を繋ぎ、同じ苦悩の中で1945年終戦を迎える。
先に読んだ馳星周のカムイの涙が現代のアイヌの生活の1断面を描いていたが丁度それを裏打ちするようなアイヌの歴史を知る貴重な一冊だった。
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