2022年6月25日土曜日

高田郁’「あきない世傳金と銀」(11~12) 

 コロナ下での執筆で2022年2月18日、最新版(第1版)が出版された。完結かと思っていたがどうやらまだまだ続きそうだ。関係ないことだがこの日は私の誕生日に当たる。これも何かの因縁かもしれない

伊勢から大坂に出てきて古着商から身を起こし、2代目で呉服商にまで成長した。2代目亡き後、その奥さん富久が奉公人に、そして幸に言い聞かせてきた家訓がこの五鈴屋の経営理念だ。それは
「買っての幸せ、売っての幸い」で言えば訪問販売を主にしていたため、顧客の付き合いも古く長い。その中の学者たちか商いの心得を菜根譚から書にして渡してくれる。
・哀颯的景象 就在成満中
 発生的機縅 即在零落内

衰退の兆しは隆盛の時に始まり、芽吹きは葉が枯れて落ちる時に始まっている。だから君子たる者は、繁栄している時に、後日の異変に備え、困難に遭遇したときは、ひたすら耐え忍のんで初志を貫つらぬかねばならない、と。

7代目の店主としての幸は、江戸店を引っぱって10年、ほどほどの手ごろな呉服の店前現金商いで成長し、仲間内から足を引っ張られて呉服の扱いを絶たれ、その後は太物(木綿)だけで知恵を絞り、新たな浅草太物仲間の中で信頼を獲得して晴れて、浅草呉服太物仲間という組合になることを幕府から承認を取り付け、新規に武家相手の商売も広がり始めた。手代の健輔(5代目までの番頭、治兵衛の息子)に9代目を託していて、ようやくそれを引き受けるまでに傾聴し、経験を積んできた。順風万般とはいえ、逆にこれまでの木綿という庶民のための布の商いからは高級呉服(絹織物)は敷居の高い商品であり、大店でもない五鈴屋は店の基盤をどこに置くべきか迷ってしまっている。

最後のところでまた新たな戒めの言葉をもらう。

未有根不植 而枝葉栄茂者

商いの根っこが揺らいでいる状態では、幹が太くなることも枝葉が健やかに伸びることも難しい、という意味であろう。次号は今年の暮れぐらいだろうか?今後の展開が待たれる。


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