2022年8月11日木曜日

高田郁:「みをつくし料理帖(特別編)花だより

 1822年から3年にかけてのその後の登場人物たちのその後である。

女料理人澪の去ったその後の「つる屋」の話。4年の月日を経て大坂に戻って店を開いた澪のところに様子を見に行きたくて仕方がない。

澪を愛しながら料理人の道に進むため、自ら身を引いた御膳奉行の小野寺数馬、格上の大目付から妻由緒を迎え、穏やかなしかし不思議な夫婦として平穏無事?相変わらず料理下手の叔母早帆から夫にはかって想い人がいたと明かされて気になって仕方がない

晴れて大門を出て、一般人に戻った花魁あさひ大夫は本名の野江に戻って、大阪に戻り、昔、親が開いたような舶来物や豪奢な簪などを商っている。大坂では江戸と違って女名字による店主は認められていないので3年の期間の間に身の上を決めなければならない決断に迫られている。

町医師、源斎と晴れて夫婦となり、今は大坂で「つる屋」をイメージしたような小さな店を長屋の一角に構え、それなりに評価を得て固定客も増えつつある。ここで西の方から今でいうコレラが発生し、当時の医術では到底かなわず、治療法も予防法もわからず、源斎は何とかと踏ん張るも打つ手もなく憔悴しきり、医師としてのプライドも失い、立ち直ることができない。

4つの話のその後談であった。これで「みをつくし」は完結を迎えた。楽しませてもらった。


2022年8月3日水曜日

高田郁:「みをつくし料理帖(7)~(10)

第7巻「夏天の虹」
想いびとである小松原と添う道か、料理人として生きる道か・・・・・・澪は、決して交わることのない道の上で悩み苦しむ。「つる家」で料理を旨そうに頬張るお客や、料理をつくり、供する自身の姿を思い浮かべる澪。天空に浮かぶ心星を見つめる澪の心には、決して譲れない辿り着きたい道が、はっきりと見えていた。そして澪は、自身の揺るがない決意を小松原に伝える。

第8巻「残月」
吉原の大火、「つる屋」の助っ人料理人・又次の死。辛く悲しかった時は過ぎ、吉原の大火の折、又次に命を助けられた摂津屋が「つる屋」を訪れた。あさひ太夫と澪の関係、そして又次が今際の際に遺した言葉の真意を知りたいという。澪の幼馴染、あさひ太夫こと野江、その他、若旦那・左兵衛との再会は叶うのか? 料理屋「登龍楼」に呼びだされた澪の新たなる試練とは……。雲外蒼天を胸に、

・迷いに迷った時道が枝分かれして、、どうすれば良いか?そんな時、自分なら心星を探す、との医師・源斎の言葉を幾度も噛み締める。一流料亭の「一柳」主人柳吾からの誘いも同じように心星に照らしてみれば自分の進みたい道とは違う。

第9巻「美雪晴れ」
名料理屋「一柳」の主・柳吾から求婚された元の御寮さん、芳。悲しい出来事が続いた「つる家」にとってそれは、漸く訪れた幸せの兆しだった。しかし芳は、なかなか承諾の返事を出来ずにいた。どうやら一人息子の佐兵衛の許しを得てからと、気持ちを固めているらしい――。一方で澪も、清右衛門から掛けられた「お前が身請けするんだ」、この暗示に応える方法があるのか、また料理人としての自らの行く末について、懊悩する日々を送っていた。

第10巻「天の梯」
『食は、人の天なり』――医師・源斉の言葉に触れ、料理人として自らの行く末に決意を固めた澪。どのような料理人を目指し、どんな料理を作り続けることを願うのか。澪の心星は、揺らぐことなく頭上に瞬いていた。その一方で、吉原のあさひ太夫こと幼馴染みの野江の身請けについて奇想天外な一手を編み出して、身請け金4000両を生み出す発想の転換。澪の熱い理解者医師、源斎も進路で大きな悩みを抱えていた。厚い雲を抜け、仰ぎ見る蒼天の美しさをみることは叶うのか!?

2022年8月2日火曜日

高田郁:「みをつくし献立帖」

 みをつくし料理帖全10巻に出てきた料理レシピを1冊に纏めたレシピ本だが、ひと工夫してあって、全10巻での一寸したエピソードや思い入れなどが間に入っている。例えば、御台所町という町名や火事で燃えた後の2件目のつる屋のあった俎板橋辺りを舞台設定に選んだ経緯、お化け稲荷というのが実在したことなど興味深い。江戸名所図会を丹念に調べているのですね。大坂での大洪水もきちんと記録していた人がいたんですね。その人の名は曲亭馬琴(滝沢馬琴)だそうです。作中の淸右衛門先生のことのようです。

本題のレシピだが、以前にも紹介したように大体今の物価にして600円から1,000円ほどのお手頃価格で町民向けに商売をしてきたというだけあって、庶民的で家でもまねできそうな簡単レシピが多い。手元に置いておくと何かと便利と思わせるようなレシピが大半だ。作者は自分で手作りで試作を重ね、それを紹介しているところが泣かせる。料理につけた名前が興味と食欲をそそる。いくつか、例を挙げる。

・はてなの飯(鰹を味付けして混ぜご飯に)
・蓮の実の粥(塩で味を調える)
・ぴりから鰹田麩(出汁の鰹の残りを使ったデンブ)
・独活と若布の酢味噌和え
・梅と茗荷とゴマの握り飯
・素揚げの牛蒡
・焼きソラマメ
・白尽くし雪見鍋(鱈、白ネギ、しめじを出汁、しょうゆ、酒でひと茹でし大根おろし、柚子などを散らして完成)
・浅蜊の御神酒蒸し
・山芋の磯部揚げ(すりおろした大和芋を浅草海苔で包んで揚げる)
・忍び瓜(キュウリを軽く茹で、適当な調味料で味付け、シャキシャキ感が良い)
・里芋の黒胡麻餡かけ
・蓮根の射込み
・ありえねぇ(キュウリ、茹で蛸の削ぎ切りを出汁、酢醤油で味を調え、新生姜を針生姜にしてかける)
・大根葉と雑魚の甘辛煮

巻末にレシピを載せてあるも多々あった。
・トロトロ茶碗蒸し、ほっこり酒粕汁、里の白雪、ほろにが蕗ご飯、大根の油焼き、牡蛎の宝船、鯛の福探し、こんがり焼き柿、ふわり菊花雪
料理名は凝っているが内容はどれも家庭料理的なものばかり。とても参考になったがみんな忘れてしまう。

・牡蛎の宝船・・・日高昆布を舟形にし、中に牡蛎を敷き、コンロで焼き、酒蒸しにする。
・鯛の福探し・・・タイの骨を丹念に漁ると9つの小骨が見つかるという。昆布を焼いて船に見立て、中に鯛の焼き物をほぐし易いように
・哀し柚べし・・・又次が残していったゆべし

詳細は本を買ってみてください!




吉田修一:「永遠(とは)と横道世之介」

 横道世之介シリーズの完結編であることはタイトルから想像がつく。これは新聞の連載で読んだものである。と言っても細切れで読んだわけではない。というのは私は新聞のデジタル版の購読者なので、こういう連載小説はHPのアーカイブスのようなところに全部保管されているのでまとめ読みが可能なので...