2021年6月28日月曜日

原田マハ:「異邦人」(いりびと)

 4冊目は絵画の愛好家(コレクター)や画商などの美術界の周辺の世界が舞台だった。時は丁度2011年3.11の直後に設定し、結婚間もなく妊娠した妻が放射能の危険を感じて京都に避難したところから始まる。祖父が有名なコレクターで美意識の高くて裕福な家庭で何不自由なく成長し、今はその収蔵品を収めた美術館の副館長を務める。結婚相手は銀座の老舗の画商で画廊経営者の専務という絵にかいたようなセレブの夫婦。この夫婦が京都の有名な日本画家と知り合い、そこの娘の類い稀な鋭い感性を感じさせる日本画に接する。3.11を機に拡がる環境汚染への不安、経済不安が経営難をもたらし、一方これまでの恵まれた環境から優れた絵画にはお金を惜しまない性癖が益々強くなり次第に歯車が狂いだす。京都の移り変わる四季に合わせて物語が進行する。後半は出生の秘密や日本絵画画壇での争いや何やかや、盛り込みすぎる感が強い中で終わる。

2021年6月18日金曜日

原田マハ:「風のマジム」

 沖縄の南の離島、南大東島にあるアグリコール・ラム酒を製造しているグレイスという会社があるという。農業生産型のラム酒でこれに比して通常のラム酒は工業生産型のラム酒。その違いはアグリコール・ラム酒はサトウキビを搾り、その「サトウキビ汁」を発酵させて造るラム酒です。通常のラム酒は工業生産型ラムを指し、製糖工場で砂糖(ざらめ)を精製する際に副産物として産出される「糖蜜」を発酵させて造るのだという。この本でアグリコールラム酒は初めてその存在を知ったわけで、読み終わった後、どうにかして入手して味わってみたいと思う。このグレイスという会社を立ち上げた金城祐子さんという魅力あふれる女性をモデルにして書かれた本が、この「風のマジム」なのだ。台風情報で毎年必ず耳にする地名だ。全島海風が吹きわたりサトウキビ畑が連なる島のようだ。一度は訪れてみたくなるような、そして風に身を任せ、薫り高いラム酒を味わってみたい。40度のアルコール酒だ。

2021年6月13日日曜日

原田マハ:「楽園のキャンヴァス」

 先日読んだ「本日はお日柄もよく」とは打って変わって本格的な歴史的な画家アンリ・ルソーの作品を巡るミステリー仕立ての力作で、一気に読ませる作者の筆力や絵画史への造詣の深さを感じさせる作品だった。誰でも一度は目にしたことがあるルソーの名作「夢」に類似の「夢をみた」という作品があるという。その真贋を世界的な研究者二人に鑑定させるという設定、そこに登場するルソーの8章からなる物語を毎日1章ずつ読んでその結果を基に最終日に鑑定結果を競わせるという趣向は面白かった。またルソーの物語そのものもとても面白く、当時のモダニズムの激流が伝わってきた。文句なく面白かった。他にもこうした絵画物があるらしくそれらも読んでみたくなった。

2021年6月4日金曜日

原田マハ:「本日は、お日柄もよく」

 とても多作の作家らしいが私としては初挑戦の作家さんだった。

タイトル通り心の籠ったスピーチを如何に展開するか、お気楽OLを楽しんでいたはずの私が同じ会社の同期の結婚式にスピーチを頼まれて、スピーチライターの道に足を踏み入れた。そしてその道のカリスマに次々と遭遇する機会を得て段々に目覚めていく。軽快で読みやすいイージーリスニングならぬイージーリーディングに最適の書。

吉田修一:「永遠(とは)と横道世之介」

 横道世之介シリーズの完結編であることはタイトルから想像がつく。これは新聞の連載で読んだものである。と言っても細切れで読んだわけではない。というのは私は新聞のデジタル版の購読者なので、こういう連載小説はHPのアーカイブスのようなところに全部保管されているのでまとめ読みが可能なので...