偶然とはいえ、一昨日のスーパームーンを見た直後に「月光の東」の感想を書くという偶然は一体何でしょう。
2003年の作品。糸魚川という日本海に面した街で小学生時代から中学1年まで過ごした時の同級生3人。エンジニアになった杉井純造、小学時代から秀才で商社マンになった加古愼二郎そして塔屋米花(とうやよねか)。糸魚川時代によねかと別れた中学生時代から36年を経て47歳になった今頃、その加古がカラチで自殺し、その宿泊先に数日前までいたという主人公塔屋米花。この謎多き美貌の女性は小さい時から周囲に強い存在感を与える女の子で、だれもが注目して止まなかった。この女性を杉井と自殺した加古の奥さん美寿寿(みすず)の二人が探り追いかけていくという宮本作品には珍しいミステリー仕立て。杉井は糸魚川から信濃大町に転校していく時に、「月光の東まで追いかけて」という謎めいた言葉を投げ掛けられた。この訳の分からない言葉はいつまでも脳裏を離れず、そして自殺した加古の残された手紙にも同じ言葉が・・・。宮本輝が過去の作品で扱った競馬業界、糸魚川という土地、絵画や骨董の世界が要所要所にちりばめられ、中央アジアやネパールなどもロケーションとして使われていてある意味、手慣れた世界の中でストーリーを進めている。美貌と頭の良さで極貧と社会から除け者にされ続けた境遇からの脱出を図り見事に成功した人、しかしその人間としての哀しみが極端な行動を引き出しさらに誤解を生んでいく。こんな強い人を私は知らない。